もぐもぐコラム

食材にこだわる料理人を育てる

長野県はどこを向いても山が見え、山あり里あり水あり。個性豊かな地域の食材はその地に生き残り、伝統野菜として認定されています。風土と食材は長い歴史の中で生き続け、私たちにその恵みを与えてくれます。今回は、安心安全で美味しい食材を使った長野県の具だくさん汁を、信州味噌仕立てで、大根、常盤牛蒡、人参、里芋、豆腐を使ってシンプルに仕上げてあります。ぜひご家庭でもお試しください。

▲具だくさん汁の材料

▲具だくさん汁

 

料理の技術は、素材の味を活かすことにあると思います。私は料理をするとき、長野県に昔から伝わる調味料を使い、素朴に、力まない技術で調理することを心がけています。また、素材を選び出す技術を身につけることも料理人にとっては重要です。温かいときが美味しい料理と、冷めても美味しい料理を見極め、食べる人の身になって考えていかなくてはなりません。仕込みの方法を人数によって変えていくことも必要です。限られた素材をどう生かすか、料理業界全体が考え、取り組む時代に来ていると感じています。

さて、料理の技術の伝承や後継者育成など、後継者の育成に責任を感じています。自分の技術を、若い料理人にいかに分かりやすく伝えるか。その方法を熟練者も自身の若い時代を思い起こし、経験を活かしながらさらに勉強しなくてはなりません。背中を見て覚えろの時代は終わりました。苦労したことを隠すのではなく、部下に教えてともに学ぶ気持ちが仕事を楽しくさせると思います。

また、若い料理人に何かを教えるとき、「ここが難しい」と先に言うのではなく、どこが難しいのかを本人に自分で気付かせることが大切です。何度も繰り返しやってみて、それでも分からないときに少しコツを教えるようにします。難しい部分を先に言ってしまうと、そこにハードルのような壁を作ってしまうことがあります。そして、仕事の難しさを会話することも大事な勉強だと思います。教える側も教わる側も、立ち位置が異なっても賢慮で素直な態度が必要です。

技術は急に上達しません。今できることをひとつひとつやりとげることで、やがて大きな技術を身につけます。職人を目指して日々努力し、明日を迎える姿勢が大切です。そういった鍛錬の中で、信州の素晴らしい食材と向き合う技術を磨いていくのです。


湯本 忠仁
おいしい信州ふーど公使
湯本 忠仁さん
農林水産省 日本食普及の親善大使
長野県調理師会会長
日本料理「ゆ庵」庵主