もぐもぐコラム

多様で上質な寿司文化も

「これが信州のアスパラですか」-東京からの来客に、採れたてをお出ししました。ただゆでて、少々のおしょう油にかつお節をパラリ。何のディップもいりません。「まるで山菜のような香りと味がします」と。私が育てたわけではないのに、自分が褒められたかのように、ちょっと自慢気な私です。

銀座NAGANOや、東京での料理教室で、大勢、県外の方々にお目にかかります。野菜はもちろんのこと、糀(こうじ)、くるみ、栗、大豆一粒まで、「信州産の味は格別」と、褒められるので、当たり前に「おいしい」と感じていた自分自身を反省しています。毎日のぜいたくを。水良し、空気良し、朝晩の寒暖差を上手に取り入れ、誇るべき農産物を作ってくださる方々がいるからこそ、自慢できる信州があるのだと、心から感謝です。

南北に長い信州は、数多くの郷土料理も豊富です。ことに、お米を主体とした、多様な寿司文化のあることは、あまり知られていないのではないでしょうか。

笹寿司

 木曽地方の「朴葉寿司」、北信の「笹寿司」。これらは有名ですね。これまた、王滝村の「万年寿司」、岩魚とご飯を一緒に漬け込んで発酵させる「馴れ寿司」の一種です。飯田の伊豆木に行くと、「鯖寿司」があります。この地の領主だった小笠原長臣(ながまさ)が、兵糧として保存の効く寿司を伝えたといわれ、塩鯖を上手に使います。

乗鞍の番所地籍には、山ぶどうの葉に、塩ますの酢〆を酢飯と一緒に包み込む「ぶどうの葉寿司」。6月から紅葉の少し前までの4ケ月半だけ食べられるお寿司です。ぶどうの葉の香りとともに、防腐の役目も果たす優れもの。阿智の清内路には「箱寿司」があり、各家で、押し型の立派な木枠でぎゅっと押し、彩り豊かな「箱寿司」のできあがりです。岩魚、塩ます、塩鯖と、塩蔵がもたらす発酵を、さらに酢を加え、おいしい郷土料理を食べ続けている信州って、やっぱり素晴らしいですね。


横山タカ子
おいしい信州ふーど公使
横山タカ子さん
郷土料理研究家
2009年知事表彰(産業功労賞)受賞
長年テレビ、ラジオにレギュラー出演
NHK「きょうの料理」講師
身近な素材と郷土食を大切にしたおしゃれな料理に定評、著書多数